斜視・複視とは
斜視とは目の位置がずれている状態です。正面を見ている状態でずれている場合もありますが、目を動かして上の方や横の方を見た時だけズレる場合もあります。
斜視になり物が二重に見える症状を複視と言いますが、長い期間、斜視が続いている場合などは、目はずれていても複視を自覚しない場合もあります。
また片眼の視力が極端に悪い場合などは片目が外側に向いてしまう外斜視になることがあります(廃用性外斜視)。
急に起こった斜視では突然に物が二重に見えるようになるためすぐに気がつくことが多いですが、疾患によっては正面を見ている時は複視の自覚はなく、目を動かして上の方や横の方を見た時だけに複視が出るような場合もあり、気づくのに時間を要することもあります。
斜視・複視の原因
先天性や幼少期から発症するような斜視の場合には、画像検査などでも特に異常がなく、何らかの脳の異常で目の動きの制御がうまくできないことなどが原因と考えられています。子供の頃からあった潜在性の斜視が年齢が上がるにつれて徐々に症状が強くなることがあります。
斜視・複視は眼球の動きが悪くなるさまざまな疾患が原因となります。眼は脳神経が外眼筋という眼を動かす筋肉に信号を伝えることでバランス良く動いています。よって脳神経と外眼筋のどちらかにトラブルがあれば目の動きが悪くなる可能性があります。
その他では頻度は少ないですが、眼球の周囲に腫瘍のような、物理的に目の動きを制限するようなものができたりしても眼球の動きが悪くなったり眼が偏位したりすることで複視が現れます。
脳梗塞・循環障害
眼球は動眼神経、滑車神経、外転神経という3つの脳神経によって動いています。斜視の症状を見た時には、まず脳に異常が無いかを画像検査(CT MRI) で調べる必要があります。高血圧や糖尿病など動脈硬化や血管障害が起こりやすい病気を持っている方では、脳梗塞や脳出血が原因で3つの神経のいづれかに障害をもたらしている可能性も考えます。
脳動脈瘤
特定の部位の脳動脈瘤は大きくなると動眼神経を圧迫して眼球の動きが悪くなったり(複視)、まぶたが下がる(眼瞼下垂)、瞳孔の動きが悪くなってまぶしくなる(羞明)の症状が現れることがあります。眼の症状が出現する時は脳動脈瘤が急速に増大している可能性があります。迅速な診断と治療が必要です。
海綿静脈洞の障害
脳には静脈洞と呼ばれる静脈血で満たされているスペースがありますが、その中を内頸動脈という血管が貫いています。この内頸動脈が何かの原因で破れると静脈洞に動脈血が流入します(内頚動脈海綿静脈洞瘻 CCF)。眼球の静脈圧が上昇したり、海綿静脈洞の中を動眼神経、滑車神経、外転神経が走行していることから、さまざまな目の症状が出現します。複視、目の充血、眼球突出、拍動性雑音、耳鳴りなどがあります。
重症筋無力症
神経と筋肉の接合部の信号の伝達が悪くなり、眼球の動きが障害される病気に重症筋無力症があります。この病気は自己免疫疾患といわれ、体の中に自己抗体という信号の伝達を阻害する物質ができることで発症します。通常は眼瞼下垂といってまぶたが下がってしまう症状から始まりますが、眼球運動が悪くなることもしばしばあります。血液検査や注射を使った検査などで診断をします。朝より夕方のほうが症状が強くなる特徴があります
多発性硬化症
多発性硬化症は脳や脊髄、視神経に炎症を起こして神経が障害される疾患です。自己免疫が原因となります。本来、免疫とは外敵や異物から自己を守るためのものですが、免疫系に異常が起き、自分の体を外敵と見なして攻撃してしまうことによっておこる疾患です。多発性硬化症では眼を動かしている神経が障害され眼球運動が悪くなることで斜視や複視の症状が現れます。また視神経が障害されることで視力障害や視野障害も現れます。
フィッシャー症候群(Fisher syndrome)
フィッシャー症候群は外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失の症状を特徴とする疾患です。外眼筋麻痺によって眼球運動が障害されて斜視・複視が出現します。三症状が揃わないこともあります。ギランバレー症候群の亜型とされています。
発症前に感冒症状や下痢などの感染症状があることが多く認められます。症状は自然軽快することも多いですが重症例では免疫グロブリン療法や血液浄化療法が行われることもあります。
サギングアイ症候群
(Sagging Eye Syndrome)
最近、複視の症状を訴える患者さんの中に、眼球の周りにあって眼球を支えている支持組織(プーリー)が弱くなり、眼の位置や動きが悪くなっていることがわかりました。MRI検査で眼窩内のプーリーが薄くなったり、伸展していることが観察され診断ができるようになりました。またこれらの患者さんでは眼瞼下垂や上まぶたの深い窪みなども多く認められます。
症状によってプリズムメガネの装用で症状を緩和させたり、症状が強い場合は手術が行われます。
眼窩腫瘍
眼は眼窩と呼ばれる周囲を骨に囲まれるくぼみの中にあります。眼窩内に腫瘍ができると眼を動かす外眼筋を圧迫したりして眼球の動きが障害され斜視・複視や眼球突出の原因となります。また眼窩に隣接した副鼻腔に腫瘍性の病変があると眼窩と副鼻腔の間の骨を破壊して眼窩内に侵入して、眼窩腫瘍と同様の症状をきたすことがあります。
バセドウ病(甲状腺眼症)
バセドウ病などで起こる甲状腺眼症(バセドウ眼症)は外眼筋に炎症が起こることで筋肉の動きが悪くなり斜視の原因となります。バセドウ病があることがわかっていれば診断も比較的容易ですが、バセドウ病の症状が無い方や診断がついていない場合には診断が遅れることがあります。脳の画像検査の時に眼球の周りの筋肉の状態が検査できると診断の助けになります。甲状腺眼症では筋肉が炎症で大きく肥大しています。
急性内斜視
近年、デジタル機器の長時間使用が影響していると思われる内斜視の患者さんが増加しています。スマートフォンやタブレット、ゲーム機器を使用する子供の患者さんの受診することもあります。内斜視は眼が内側に向いてしまう状態です。物を見る時に片眼はまっすぐ向いていますが、片方の眼は内側にずれてしまいます。物が二つに見える複視の症状がありますので生活に支障が出ます。
デジタル機器の使用を控えることで症状の改善が見られる場合もありますが、積極的な治療が必要なこともあります。
ボトックス注射治療が良い適応となります。内直筋という筋肉に注射をして筋肉を麻痺させて斜視を改善させます。効果を見ながら必要に応じて注射を継続します。ボトックス注射は3ヶ月程度で治療効果が無くなりますので定期的な注射が必要な場合もあります。
斜視の治療
斜視の原因となっている疾患の治療によって眼球運動が改善され、複視の症状も良くなることがあります。しかし治療後も複視の症状が残ってしまった場合には眼科的な治療を行います。正面を見た時に残っている複視はとてもつらいものです。また下方視で複視がなくなることで日常生活がかなり楽になります。
治療は原因となった疾患にもよりますがプリズムメガネの装用や斜視手術を行います。神経麻痺による斜視は治療が難しいことがあります。
当院の斜視診療
当院では近隣の画像診断施設と連携してMRIの撮影が可能です。
あらかじめ予約をとることでMRI撮影の当日に画像データを確認しながらの診察も行えますので迅速な診断が可能です。
また隣接した内科クリニックではCTの撮影および脳神経外科医による診察が可能です(要予約)。
当院は常勤の視能訓練士による斜視や眼球運動の精密な検査やプリズムメガネの処方も可能です。
ボトックス注射や斜視手術にも対応しておりますので是非ご相談ください。