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  • 子供の霰粒腫の切開

    瞼のふちの母斑の切除前写真

    目次

    霰粒腫は日常の診療でよくみられる目の病気です。まぶたにしこりができて、時には赤く腫れたり痛みを伴うことがあります。お子さんにも、しばしば見られる病気です。基本的には自然治癒も期待できる病気ですが、なかには長期間治らずに、患者さんも困ってしまうことがあります。大人の場合は切開手術で治癒に導くことが可能ですが、子供の場合は特に低年齢では手術をおこなうことが難しく、薬物治療を根気よく続けることになります。今回は切開手術をおこなうことができた子供の症例をご紹介します。

    霰粒腫とは?子供に多い原因

    霰粒腫の基本的な知識

    霰粒腫は、まぶたにできるしこりで、子供にもよく見られます。見分けが難しいものに麦粒腫(ばくりゅうしゅ)がありますが、原因や症状が異なります。霰粒腫は、マイボーム腺というまぶたの脂を分泌する腺の炎症によって起こります。まぶたの縁にあるマイボーム腺の出口が詰まり、分泌腺の内部に肉芽と呼ばれるしこりを形成します。麦粒腫は細菌感染が原因で起こる急性の炎症で、痛みを伴うことが多いのに対し、霰粒腫は初期には痛みが少ないのが特徴です。霰粒腫も細菌の感染で炎症が強くなると、赤く腫れて大きくなり、痛みがでることもあります。

    子供の霰粒腫の原因

    子供の霰粒腫もできるメカニズムは大人と同じです。まぶたにある脂を分泌するマイボーム腺が詰まることで起こります。このマイボーム腺は、涙の成分である油分を分泌し、涙が蒸発するのを防ぐ役割を担っています。マイボーム腺の出口が詰まると、分泌された油分が腺の中に溜まり、炎症を引き起こして霰粒腫となります。

    アレルギー体質や体質的な要因も関係すると言われています。アレルギー性結膜炎などで目を頻繁にこする子供は、マイボーム腺が詰まりやすくなることがあります。また、乾燥肌やアトピー性皮膚炎を持つ子供も、マイボーム腺の機能が低下しやすく、霰粒腫のリスクが高まります。その他、不衛生な手で目を触ることも、細菌感染を引き起こし、マイボーム腺の炎症を悪化させる原因となります。マイボーム腺の詰まりを防ぐためには、まぶたを清潔に保ち、目をこすらないようにすることが重要です。

    霰粒腫の治療法

    自然治癒を待つ

    霰粒腫は、小さければ自然に治ることもあります。特に、初期の小さな霰粒腫は、特別な治療をしなくても数週間から数ヶ月で自然に吸収されることがあります。目を温めて様子を見るのも一つの方法です。清潔なタオルを温水で濡らし、軽く絞ってまぶたに当てます。温めることでマイボーム腺の詰まりが解消されやすくなります。1日に数回、5分から10分程度行うと効果的です。

    自然治癒を期待する場合は、まぶたを清潔に保ち、目をこすらないようにすることが重要です。ただし、霰粒腫が大きくなったり、症状が改善しない場合は、むやみに何日も自然治癒を待つのはおすすめしません。特に赤く腫れてきた場合は、診察を受けて適切な治療を受ける必要があります。大きさも小さく、赤みなどもない場合は、自然治癒を待つことも可能です。症状の変化を注意深く観察しましょう。

    薬物療法

    霰粒腫の薬物療法では抗菌剤やステロイド剤の目薬や眼軟膏、内服薬が処方されます。薬物療法は、霰粒腫の炎症を抑え、症状を緩和することを目的として行われます。抗菌剤は、細菌感染が疑われる場合に使用されます。細菌感染があると、赤く腫れ、霰粒腫が皮膚の表面に向かって大きくなり、皮膚を破ってしまうことがあります。ステロイド剤は、炎症を強力に抑える効果がありますが、副作用のリスクもあるため、特に子供に使用する場合は医師の指示に従って正しく使用する必要があります。

    薬物療法の効果は、個人差がありますが、通常、数日から数週間で症状が改善します。しかし、薬物療法だけで霰粒腫が完全に治ることが難しい場合も多く、炎症が改善した後もしこりが残ってしまうことがあります。また、薬物療法だけでなく、まぶたを清潔に保ち、目をこすらないようにすることも大切です。薬物療法で症状が改善しない場合は、可能であれば切開手術などで、霰粒腫の肉芽を取り除く治療を検討します。

    切開手術

    霰粒腫が長期間治らない場合などで切開手術をおこなうことがあります。基本的には、まぶたに注射をする局所麻酔で手術を行いますが、子供の場合、注射をおこなうことが難しい場合は手術ができません。麻酔が効いていれば手術中の痛みはほぼありません。施設によっては無麻酔で霰粒腫の肉芽を圧出する処置で霰粒腫の治癒をおこなっています。皮膚が破けて霰粒腫の肉芽の一部が露出しているような場合は良い適応かもしれません。また、笑気麻酔といって、鎮静効果のある笑気ガスを鼻から吸入することでリラックスした状態にさせて麻酔と手術をおこなう施設もあります。

    当院の子供の霰粒腫切開

    当院で子供の霰粒腫で切開をおこなった例を紹介します。11歳の女子と9歳の男子です。

    11歳の女子の霰粒腫切開

    最初の例は11歳の女子の患者さんです。右上まぶたと左下まぶたに霰粒腫ができていました。近医で診察を受けていて点眼薬が処方がされていました。右上は赤くなっていて、感染の兆候がありました。左下の霰粒腫は大きなしこりでしたが、皮膚面もきれいで感染の兆候はありませんでした。いったん抗菌薬の内服を追加して経過をみることにしました。

    およそ1ヶ月後に再診となりました。右上まぶたの霰粒腫は治癒していましたが、左下まぶたの霰粒腫は大きなしこりが残ったままで改善していませんでした。診察の時から、とてもしっかりとしたお子さんで、切開手術の説明をすると大丈夫そうでしたので、手術をおこないました。

    当院ではお子さんの不安を軽くするために、親御さんにも手術室へ入っていただき、お子さんの近くで見ていていただくことができます。
    初めに皮膚の表面から麻酔をおこないました。痛みが少なくなるように調整した麻酔薬をごく細い針で注射します。最初から多量の麻酔薬を注射しなくても大丈夫です。少しづつ追加すれば、徐々に麻酔がしっかり効いてくるので、追加の注射の痛みも無くなっていきます。

    大きな霰粒腫でしたが皮膚はきれいでしたので、まぶたの裏側から切開しました。霰粒腫の肉芽をしっかり除去して手術を終わりました。手術中は特につらい様子もなく、眼帯をして帰宅しました。

    1週間後に受診していただきました。やや腫れとしこりが残っていましたが、内出血などもなく経過は良い状態でした。その後、しこりは消失していきました。

    切開手術前の霰粒腫
    切開手術前
    切開手術後の霰粒腫
    術後1週間

    9歳の男子の霰粒腫切開

    次は9歳の男子の例です。とてもしっかりしたお子さんでした。右下のまぶたに大きな霰粒腫があって、赤く腫れて皮膚の表面は破れていました。これまでに数件の眼科を受診しましたが、点眼薬と眼軟膏で経過をみていました。切開治療のご相談で、遠方からわざわざ当院を受診していただきました。

    当日に時間をとることができたので手術をおこなうことにしました。手術の準備として、塗る麻酔クリームをまぶたの表面に塗りました。クリームを塗ってラップをかけることで麻酔の効果が発揮されます。30分程度時間をおくとより効果的です。この塗る麻酔をすることで注射の麻酔の痛みを軽減できます。

    9歳男子霰粒腫の画像
    下眼瞼の大きな霰粒腫
    麻酔クリーム塗ってラッピング

    お母様と妹さんも一緒に手術室に入って、そばで付き添っていただきました。手術は初めに皮膚からの麻酔の注射をおこないました。大丈夫?と声をかけると”うんっ”と普通にお返事をくれました。皮膚からの麻酔の注射を少しづつ追加して十分に麻酔を効かせてから、皮膚を横に切開しました。

    まぶたでは皮膚とその下に筋肉があります。さらにその下に霰粒腫の発生する瞼板という比較的硬い組織があります。破れているような霰粒腫では瞼板から発生して、筋肉を破って、皮膚まで肉芽組織が出てきていることがあります。手術では皮膚を切開して、皮膚まで広がっている肉芽組織をしっかり切除することで、治癒しやすくなり、再発も予防できます。また切除した後は皮膚を縫合することでキズもきれいに治りやすくなります。

    霰粒腫の肉芽組織を丁寧に切除して、表面をナイロン糸で2針縫合しました。少々時間がかかりましたが、その間も痛みを訴えることなく無事に終了しました。お母様にも肉芽がきれいに除去できた霰粒腫の中を覗いていただきました。当日は眼帯をしましたが、翌日の洗顔などは普通に可能です。

    1週間後に受診していただきました。ナイロン糸に血液の塊が付着していましたが、腫れもあまりなく経過は順調でした。抜糸をおこない、キズの表面を確認しました。まだキズの赤みやでこぼこが少しありますが、時間の経過と共にきれいになっていくことと思います。

    縫合してある霰粒腫切開創
    抜糸前の切開創
    抜糸後の霰粒腫切開創
    抜糸後の切開創
    霰粒腫切開後の
    切開後1週間

    当院の子供の霰粒腫の治療

    霰粒腫は基本的には自然治癒も期待できる病気です。しかし、感染の兆候が見られる場合などは抗菌剤やステロイド剤の点眼薬や眼軟膏を積極的に使用します。また内服薬も状況に応じて使用します。小さなお子様では、飲み物に溶かせるドライシロップの抗菌薬を処方します。

    小さなお子様では難しいとは思いますが、ある程度の年齢のお子様では手術が可能です。先ほどの症例でお示ししたように、痛みや不安をできるだけ軽くするような対応をとって、安全に手術がおこなえるようにします。

    当院は多くの霰粒腫の患者さんに受診していただいています。手術については当日のお時間をとれることが難しい状況ですが、一度受診していただくことで早めの手術を予定することが可能な場合もあります。お子様の霰粒腫でお困りの方はぜひご来院ください。

    この記事の監修

    院長

    伊藤学

    ・東京慈恵会医科大学附属病院
    ・東京女子医科大学糖尿病センター眼科
    ・富士市立中央病院眼科部長
    ・オリンピア眼科病院
    ・溜池山王伊藤眼科開設
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