甲状腺眼症(バセドウ眼症)の目の見開き:原因・検査・治療

バセドウ病と診断された時に目の見開きが強いことに気が付いた患者さんも多いのではないでしょうか。目の見開きが強い症状は上眼瞼後退と呼ばれ、甲状腺眼症(バセドウ眼症)ではまぶたの腫れとともに最も多い症状です。目が見開いてしまうと、見かけ上、目が突出しているようにも見えてしまい患者さんは症状がとても気になり心配されると思います。目の見開きの原因は甲状腺ホルモンの影響とまぶたの筋肉の炎症が関係しています。
この記事では、上眼瞼後退の原因・検査・治療法について、当院の症例もあわせて紹介しますので、症状の理解を深めていただけると思います。

見開きが強くなる上眼瞼後退とは?

上眼瞼後退の症状

上のまぶたは黒目(角膜)の縁から1~2mm程度はかぶさっているのが正常です。ところが甲状腺眼症では上のまぶたが引き上げられて、黒目の縁のぎりぎりか黒目が完全に露出して白目(結膜)が見えてしまうことがあります。これが上眼瞼後退と呼ばれる症状です。両眼に見られたり、片眼の場合もあります。また上眼瞼後退と同時にまぶたの腫れが見られることも多くあります。

上眼瞼後退の原因

上眼瞼後退の原因は二つあります。

1)ミューラー筋の緊張
ミューラー筋には瞼を引き上げる作用があります。バセドウ病では甲状腺ホルモンが高くなることで交感神経が興奮します。その結果ミューラー筋が緊張してまぶたが引き上げられて見開きが強くなります。バセドウ病が未治療であったり、まだ甲状腺ホルモンのコントロールが不十分である場合に見られます。通常は両眼のまぶたに症状が見られます。ホルモンが正常化すると次第に症状は改善します。

2)上眼瞼挙筋の炎症
上眼瞼挙筋もまぶたを引き上げる作用があります。バセドウ病では自己免疫によって眼周囲の筋肉などに炎症が起こります。上眼瞼挙筋に炎症が起こると、筋肉は肥大し、伸びづらくなり、まぶたを引き上げてしまいます。同時にまぶたが下がりづらくなります。片眼の場合と両眼の場合があります。多くはまぶたの腫れが同時に起こります。

上記二つの原因がどちらか一つだけある場合と同時にある場合があります。

まぶたの構造

上眼瞼後退の検査・診断

診察

ざっと以下のような点に注目して診察をします。
1)上眼瞼後退は片眼性か両眼性か
2)まぶたの腫れの有無
3)上まぶたの下がりづらさはないか
4)まぶたを翻転してみて抵抗はないか・翻転できるか
5)眼はしっかり閉じることができるか
6)角膜・結膜にキズはないか
7)問診:起床時のまぶたの腫れ・目やに・涙

バセドウ病の血液検査

すでにバセドウ病と診断されている場合は、内科的での血液検査で甲状腺ホルモンの値がどのレベルにあるかに注目します。ホルモン値が高い場合はミューラー筋の緊張を引き起こして上眼瞼後退の原因となっている可能性が高いです。また自己免疫の強さを反映する自己抗体である甲状腺刺激ホルモン受容体後退(TRAb) や甲状腺刺激抗体(TSAb) の値が高い場合は上眼瞼挙筋に炎症が起こっている可能性があります。

MRIによる画像検査

上眼瞼挙筋の炎症が原因の場合ではMRIで上眼瞼挙筋の肥大が確認できます。また現在の炎症の有無もわかります。上眼瞼挙筋の肥大はあるが、現在の炎症がない場合は、過去に炎症が起こったが自然に収まった可能性があります。ただし、筋肉の障害は残る場合があり、上眼瞼後退の症状だけ残っていることもあります。

上眼瞼後退の治療

ミューラー筋の緊張の場合

ミューラー筋の緊張は甲状腺ホルモンが高いことによる交感神経の興奮が原因となります。よって甲状腺ホルモンが正常になっていくことで症状は自然に良くなっていきます。メルカゾール・プロパジール・チウラジールなどの抗甲状腺薬やヨウ化カリウムの内服治療で甲状腺機能が正常化するまでにはある程度の時間が必要です。上眼瞼後退の改善にもある程度の時間を要します。

上眼瞼挙筋の炎症・肥大の場合

上眼瞼挙筋の炎症にはステロイド注射が効果的です。懸濁剤のステロイドを使用します。これは長期間の作用が期待できる薬剤ですが、一方、長期間作用するということは副作用にも注意が必要となります。上眼瞼の皮膚から眼輪筋、眼窩隔膜を貫いて、眼窩脂肪内で上眼瞼挙筋の近傍に薬剤を注射してあげるイメージで行っています。皮下の浅いところに注射すると、効果が期待できないばかりか、皮下に白い懸濁剤が透けてみえてしまったりします。これはなかなか吸収しないので長期間残ってしまうことがあります。また誤った部位や量の注射を行うと、その部位の脂肪萎縮などを起こします。注射にはある程度の熟練が必要です。また、まぶたの皮膚からの注射の効果が不十分である場合は、結膜(白目)を切開して注射をすると効果が得られることがあります。

ステロイド全身投与

眼の症状が強く、炎症が眼を動かす筋肉などに複数部位で起こっている場合などは、ステロイドの全身投与による治療を行うことがあります。この治療は上眼瞼挙筋の炎症にも効果的です。状況を見ながら、前述のまぶたからの局所注射も併用して治療することで上眼瞼後退を速やかに改善できるよう治療を行います。

ステロイド注射で治療を行った例

右上眼瞼後退

以前より数回、上眼瞼後退に対してステロイド注射を行っている患者さんです。わずかですが、左右の眼を比べると、右眼の見開きが強く、上方の白目(結膜)が露出しています。ごくわずかな左右差でも、外観的には大きく違ってしまいます。患者さんもとても気になっているようでした。
患者さんと相談して、久しぶりに右眼にごく少量のステロイド注射を行いました。

ステロイド注射の効果

注射して2ヶ月後の写真です。右眼の見開きが改善して左右のバランスが良くなっています。これぐらの、わずかな上眼瞼後退もきちんとコントロールしていけば、バセドウ病が落ち着いて、眼の症状も変化することがなくなった時に、良い状態で安定させることができます。上眼瞼後退も、その重症度は様々です。ステロイド注射だけではコントロールできないこともありますが、できるだけ良い状態に近づけることが大切です。どうしても治しきれない部分に関しては手術治療もあります。

注射前
注射後2ヶ月
写真の使用をご快諾いただきました患者様に感謝いたします

まとめ

上眼瞼後退はまぶたの腫れと並んで、甲状腺眼症(バセドウ眼症)でよく見られる症状です。見開きが強くなり、ビックリしたような目になることで、本人だけでなく周囲の人に顔貌の変化を指摘され、病気の発見につながることもあります。上眼瞼挙筋の炎症の場合では、早期に適切な治療を行えば症状を改善させることが可能ですが、時間が経ってしまった場合やすでに炎症が収まってしまっている場合などは薬物治療だけでは症状の改善が難しいこともあります。当院では、上眼瞼後退に対して、ステロイド注射などで、きめ細やかな治療を行っています。また手術治療も可能です。最近症状に気づいた方や症状が改善せずにお困りの方のご相談を是非お待ちしております。

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