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  • 小児の近視抑制治療:EDOFコンタクトレンズという選択肢
  • 小児の近視抑制治療:EDOFコンタクトレンズという選択肢

    目次

    近年、小児の近視は増加傾向にあります。進行を抑制するために、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーなど様々な治療法がありますが、EDOFソフトコンタクトレンズもその一つです。聞きなれない名前のレンズだと思いますが、EDOFコンタクトレンズは近視抑制治療に有用なことがわかっています。今回は実際にEDOFコンタクトレンズの適応となった女の子の例も紹介して、レンズについて詳しく解説します。

    近視進行抑制治療の選択肢

    現在よく行われている近視進行抑制治療について簡単に説明します。

    低濃度アトロピン点眼液

    マイオピン点眼とリジュセアミニ点眼液

    マイオピン点眼液とリジュセアミニ点眼液は低濃度のアトロピン硫酸塩水和物を成分とする点眼液です。アトロピンが近視進行を抑制するメカニズムは解明されていませんが、眼の眼軸長が伸びることを抑制する可能性が考えられています。眼軸長とは眼の奥行きの長さです。眼軸長が伸びることで近視が進行することがわかっています。

    マイオピン点眼液はシンガポールから輸入されている製剤です。0.01%と0.025%の濃度の製剤があります。リジュセアミニは国内の参天製薬が開発した製剤で0.025%の製剤です。どちらも毎日就寝前に1回点眼します。

    オルソケラトロジー

    オルソケラトロジーは、就寝中にハードコンタクトレンズを装用することで角膜(黒目)の中央部を平坦にします。平坦になった角膜は光を曲げる(屈折)力が弱まり、近視が矯正されます。その強制された状態は日中も維持されるため、裸眼で快適に生活できます。また、オルソケラトロジーを行うことで近視の進行抑制されることがわかっています。近視の矯正と進行抑制を同時に行えます。

    EDOFコンタクトレンズ

    EDOFコンタクトレンズは、通常のメガネやコンタクトレンズの単焦点レンズと違い、広い範囲に焦点が合うように設計されています。このレンズは通常のメガネやコンタクトレンズと比較して、近視進行を抑制する効果があることがわかっています。取り扱いは通常の使い捨てコンタクトレンズと同様に扱えます。日本では国産メーカーSEEDが開発した1日使い捨てタイプのEDOFレンズがあり、国内で広く使用されています。

    どれを選ぶのがベスト?

    アトロピン点眼は就寝前に点眼するだけなので使いやすく、副作用が起こることも少ないため、近視が始まったら低年齢のうちからでも開始すると良いと思います。近視が進行し、裸眼の視力も低下してきて、学校や日常生活で見にくさを感じるようになったら視力の矯正が必要になります。通常のメガネを作成することも良いですが、近視の進行を抑制することを考えるのであれば、オルソケラトロジーかEDOFコンタクトレンズを検討します。これまでの報告ではオルソケラトロジーの近視進行抑制効果が最も高いとされていますので、装用が可能であれば第一に検討することをおすすめしています。ではEDOFコンタクトレンズを選択するのはどのような場合なのでしょうか。

    EDOFコンタクトレンズが適応となるケース

    近視が進行している

    オルソケラトロジーでは矯正可能な近視の強さには限界があります。一般的には-4.00D(ジオプター)という近視の強さあたりまでに適応があります。これ以上の近視ではオルソケラトロジーによる矯正では日中の視力が不足してしまったり、眼のトラブルを起こしやすくなります。また一定以上の強い乱視がある場合にも適応外となります。一方、EDOFレンズは幅広い近視の度数が製品として用意されているので強い近視にも対応できます。

    オルソケラトロジーの装用が困難

    オルソケラトロジーはハードコンタクトレンズです。硬いレンズのため、装用初期には異物感を強く感じることが多く、それが原因で装用が続けられないことがあります。このようなケースではEDOFレンズの良い適応です。

    自分で着脱ができる

    EDOFレンズは朝登校前に装用して、帰宅後に外すことになりますが、目にゴミが入るなど、何かしらの理由で外す必要がある場合に自分で着脱ができる必要があります。

    EDOFコンタクトレンズの近視進行抑制

    EDOFレンズの仕組みと特徴

    通常、私たちが使っているコンタクトレンズは単焦点レンズです。レンズは光を曲げる作用がありますが、単焦点レンズは光を曲げる強さは一つに固定されています。つまり、レンズとしては一つの度数を持っていて、一つの距離にだけピントが合うように作られています。
    一方、EDOF(Extended Depth of Focus:焦点深度拡張)レンズは、特殊な構造によって複数の度数を持っていて、ピントが合う範囲を広げたレンズです。このレンズは老眼の人のために開発されています。老眼はピントを合わせる力が年齢とともに低下していく状態です。そこでレンズの力を借りてピントを合わせられる範囲を広げて、遠くから近くまで、ある程度クリアに見えるようにしています。レンズの外観や取り扱いなどは通常の使い捨てソフトコンタクトレンズと変わりありません。

    近視進行抑制のメカニズム

    近視の発生と進行のメカニズムはすべて解明されているわけではありません。近視は眼の奥行きの長さ(眼軸長)が長くなることで発生します。眼軸長が伸びるいくつかの要因が考えられていますが、その一つに相対的周辺遠視の関与があります。いきなり難しくなってしまいましたが…。
    簡単に説明すると、通常の単焦点のレンズであるメガネやコンタクトレンズはピントをピッタリ合わせるのが得意です。メガネやコンタクトは物を見ている中心がはっきり見えるようにピントを合わせます。しかし、単焦点レンズの特性上、中心ではない周りの部分では少しピントが合っていない部分ができてボヤけます。このボヤけはレンズによってできた遠視が原因です。中心はメガネで矯正されて、近視も遠視もない状態になっても、周辺部には遠視のボヤけができます。周辺部では矯正が効き過ぎているイメージです。すると、眼はこのボヤけを感知して、遠視を打ち消すために眼の奥行き(眼軸)を成長させて近視側にしようとします。これが近視を進行させる要因の一つと考えられています。すみません、難しいですね…。
    EDOFレンズはピントが合う範囲を広げたレンズです。このレンズでは中心もはっきり見えるようにピントを合わせますが、周辺の部分のボヤけや遠視になるのを軽減させます。結果として眼が近視側になっていくのを防ぐと考えられています。

    10歳女の子のEDOFレンズ処方

    視力と近視の度数

    小学校1年生からメガネをかけ始めていた10歳の女の子です。

    視力検査の結果
    RV=0.05(1.2x -5.50D)
    LV=0.05(1.2x -5.75)

    これは右眼が裸眼で0.05 矯正1.2で矯正レンズは-5.50Dです。左眼が裸眼で0.05 矯正1.2で矯正レンズは-5.75Dです。両眼ともに近視が進行しています。もう少しで強度近視と分類される-6.00Dになりそうです。この程度の近視になるとオルソケラトロジーの適応範囲を超えています。
    ご本人も眼が悪くなっていることをとても心配しているようでした。メガネをかけていることも気にしている様子でコンタクトレンズのご相談がありました。
    コンタクトレンズはきちんと管理して使用するのであれば問題ないことをお話ししました。また、お母様にできるだけ近視の進行を抑えることが大切だとお話ししてEDOFコンタクトレンズを試すことにしました。

    EDOFレンズの処方

    右眼 -5.00D 左眼 -5.25D
    上記の度数のSEED 1DAY Pure EDOFを処方し、両眼ともに矯正視力1.0となりました。
    ご本人はとても快適な見え方に驚いた様子でした。コンタクトレンズの着脱の練習をしましたが、すぐにできるようになりました。早速自宅で装用を開始してもらうことにしました。
    今後は定期的な視力のチェックを行なっていきます。

    コンタクトレンズの着脱練習風景
    着脱練習風景

    まとめ

    小児の近視抑制治療には、EDOFソフトコンタクトレンズ、低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジーなどの選択肢があります。これらの治療法は、それぞれ異なる特徴を持ち、メリットとデメリットがあります。EDOFレンズは日中の装用で視力を矯正し、オルソケラトロジーは就寝中の装用により日中の快適な裸眼視力を提供します。低濃度アトロピン点眼は、就寝前の点眼で近視進行を抑制する方法です。

    最適な治療法を選択するためには、詳しい検査と相談が不可欠です。お子様の目の状態を詳しく検査し、それぞれの治療法のメリットとデメリットを丁寧に説明します。保護者の方は、お子様にとって最適な治療法を選択し、根気強く治療を続けることが大切です。また、治療開始後も、定期的な検査を行い、効果や副作用をチェックし、必要に応じて治療計画を修正していくことが重要です。

    近視は、放置すると将来的に強度近視となり、様々な眼疾患発生のリスクを高める可能性があります。将来的に近視治療のために手術を行えば良いではないかと考えている保護者の方もいらっしゃると思います。近視の進行は眼軸が延長することで起こります。近視治療の手術を行なっても、変化した眼球の形態は変わらず、眼疾患発生のリスクは変わりません。早期に適切な治療を開始し、近視の進行を抑制することで、お子様の将来の目の健康を守ることができます。保護者の方は、お子様の目の健康に関心を持ち、近視の疑いがある場合は、早めに相談していただけたらと思います。

    最新の研究では、遺伝的要因だけでなく、環境要因も近視の発症や進行に大きく影響することが示唆されています。屋外での活動時間を増やし、自然光に含まれる紫外線を浴びることも、近視予防に効果があると言われています。積極的に外で遊ぶ機会を設けることも大切だと思います。

    当院では視能訓練士によるお子様の検査や近視進行抑制治療を積極的に行なっています。お子様の視力のご相談をお待ちしております。

    この記事の監修

    院長

    伊藤学

    ・東京慈恵会医科大学附属病院
    ・東京女子医科大学糖尿病センター眼科
    ・富士市立中央病院眼科部長
    ・オリンピア眼科病院
    ・溜池山王伊藤眼科開設
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