視神経乳頭陥凹拡大:原因・検査・治療法

視神経乳頭陥凹拡大:原因・検査・治療法

健康診断や人間ドックで視神経乳頭陥凹拡大を指摘され、要受診と判定された方が受診されることがよくあります。”一体何のこと?特に目の症状もないけど”と眼科の受診を先延ばしにしている方もいらっしゃると思います。視神経乳頭陥凹拡大は視力や眼の健康に影響を及ぼす可能性のある状態です。今回は、当院を受診された患者さんの例を提示して、その原因や検査方法、治療法について詳しく解説します。

視神経乳頭陥凹拡大とは

視神経乳頭陥凹拡大とは何か

健康診断などでは眼底写真撮影をおこないます。眼底写真では網膜の血管を直接観察することができるので、高血圧や高脂血症に関連する動脈硬化の状態がよくわかりますが、もう一つ大切な情報として、視神経乳頭とそれにつながる網膜の神経線維の状態がわかります。視神経乳頭は、脳から眼球へつながる視神経が眼底で網膜の神経線維へ移行する部分です。視神経乳頭陥凹拡大とは、この部分がへこみ、陥没した状態となっています。

正常
陥凹拡大

視神経乳頭陥凹拡大の原因

視神経乳頭陥凹拡大の原因は多岐にわたりますが、最も一般的なのは緑内障です。緑内障は、網膜の神経線維が何らかの原因で障害され減っていく病気です。緑内障の確実な原因はわかっていませんが、眼圧が高いことは原因の一つです。しかし日本人では眼圧が正常な緑内障の患者さんが多いことから、眼圧以外の原因、視神経が弱い、血流が悪いなどさまざまな原因が考えられています。視神経乳頭陥凹拡大は緑内障の兆候のひとつです。網膜の神経線維が障害されると視神経乳頭陥凹は大きく深くなっていきます。

視神経乳頭陥凹拡大の検査

眼底検査

眼底検査では、瞳孔を通して眼の内部を顕微鏡などで観察し、視神経や網膜の状態を確認します。視神経乳頭の陥凹の程度や視神経の障害の有無などを確認することができます。網膜の神経線維が障害されると障害された部位に一致して暗く抜けた像が観察されますが、これは網膜神経線維層欠損(NFLD)と呼ばれます。時々、検診結果に網膜神経線維層欠損と記載されていて、要受診となっていることもあります。

眼圧検査

視神経乳頭陥凹拡大の原因は主に緑内障です。緑内障では高い眼圧が原因となっていることがあります。眼圧は非接触型の自動眼圧測定機器を使って測定します。プシュッと目の表面に空気があたり測定するものですが、苦手な方もいらっしゃると思います。診察室の顕微鏡には接触型の眼圧計がついています。必要に応じて測定します。

光干渉断層計(OCT)

OCT検査は、眼底の詳細な断面画像を取得する方法で、視神経の状態を詳しく観察することができます。OCT検査では、網膜神経線維や神経組織の厚さおよび視神経乳頭の陥凹の程度を測定することができます。

視野検査

視野検査は、視野の欠損や反応の低下を確認するための検査です。網膜の神経線維が障害されると、その部位に一致した視野に異常がでます。視野は急に欠けるわけでは無く、障害の程度に応じて光に対する反応の低下として検出されます。自動視野計による視野検査は視野の中のさまざまな場所に提示される光る指標を見て、見えたと感じた時にボタンを押す検査です。神経線維が障害されるとより明るい光の指標でないと見えなくなります。どのくらいの明るさの指標まで見えたかを計測して、正常な人のデータと比較することで異常を調べます。

視神経乳頭陥凹拡大のその他の原因

視神経形成不全

視神経低形成は生まれつきの視神経の発達不全によるもので、視神経乳頭陥凹拡大の原因となります。視神経低形成は、視力低下や視野狭窄などの症状を伴う場合があります。

強度近視

強度近視では視神経乳頭が変形したり、視神経乳頭陥凹拡大の原因となることがあります。また強度近視では、目の奥行きが(長さ)が長くなるために網膜が引き延ばされ、網膜神経線維も薄くなることがあります。視力低下や物が歪んで見えるなどの症状を引き起こすことがあります。強度近視の眼は緑内障を合併する頻度も通常より高くなるので注意が必要です。

その他の疾患

視神経に炎症が起こる疾患や視神経の循環(血流障害)が悪くなる疾患でも、発症から時間が経ち、視神経が萎縮すると視神経乳頭陥凹拡大の原因となる場合があります。

視神経乳頭陥凹拡大から緑内障と診断した例

眼底写真

左眼
右眼

両眼の視神経乳頭陥凹拡大と網膜神経線維層欠損

OCT

左眼OCT
左眼
右眼

右眼の上方の顕著な網膜神経繊維層および神経組織の菲薄化

視野検査

左眼
右眼

OCTで最も菲薄化していた部分に対応した右眼の下鼻側の視野異常(網膜の障害部位と視野異常は上下左右が逆になります)

視神経乳頭陥凹拡大の治療法

視神経乳頭陥凹拡大は治るのか?

主に緑内障による視神経線維の障害による陥凹拡大の場合は元に戻ることはありません。また近視に伴うものや、生まれつきの形成不全などが原因となっているものでも同様です。それとは逆に視神経線維の障害が進行すれば、陥凹拡大がより大きくなったり深くなることがあります。先天性の形成不全や強度近視では原則的に陥凹の状態が変化することはないですが、将来的に緑内障の合併があった場合などは陥凹が拡大することがあります。特に緑内障は近視の目のほうが発生頻度は高いので注意が必要です。
一度指摘された視神経乳頭陥凹拡大は次の検診などでも指摘されることがほとんどです。”またか”と放置せずに、陥凹の変化や神経線維の障害をしっかり検査して、病気を早く見つけることが大切だと思います。

検査を総合的に判断した緑内障診断

緑内障は健診や人間ドックなどの眼底写真撮影で発見されることがとても多いです。しかし前述のように視神経乳頭陥凹拡大は近視に伴うものや、生まれつきの形成不全などが原因となっていることもあります。これらの場合はOCT検査でも網膜の神経層の非薄化が検出されます。
視野検査は患者さんの感じた反応をもとに行う検査です。検査に慣れてない間は結果も不安定になりがちです。生まれつきの視神経乳頭形成不全でも視野に異常が検出されます。
通常は緑内障は短期間に進行するものではありません。検査を複数回行なって、慎重に診断を進めることが重要です。

緑内障治療の患者負担

緑内障の治療は眼圧を下げる点眼薬を続けることが基本となります。定期的な診察も必要ですので、患者さんの時間的な負担と医療費の負担となります。”他院で緑内障と診断されたが本当に緑内障でしょうか”とあらためて受診される方が時々いらっしゃいます。緑内障の診断は難しいことがありますし、特に治療開始のタイミングは医師の判断によって違うこともあります。患者さんにはできるだけわかりやすい説明をおこない、現状について理解を深めていただけるようにしております。

初めて視神経乳頭陥凹拡大を指摘されて不安を感じている方、以前に指摘されていたが、ついつい受診を先延ばしにしている方など、ぜひ当院に検査にお越しください。

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