埋没法はまぶたに糸を通して二重を作成する手術です。二重を維持するために吸収しない合成糸を使用します。使用した糸はまぶたの中に長い間残っています。その糸がまぶたの裏の結膜から露出すると眼球の表面に擦れて、黒目(角膜)や白目(結膜)にキズを作り異物感や痛みの原因となります。今回は切れた糸の断端が角膜のキズの原因となっていた患者さんで、糸を抜糸することで痛みが改善した例を紹介します。
初診時の様子
患者さんの症状
2週間前からまぶたの裏に異物があるような感じがして、充血やめやに、異物感や痛みがひどくなってきた。コンタクトレンズを外すと目が痛くて開けられなくなってきたとのことでした。
なお十数年前に両眼の埋没法による二重まぶた手術を受けていて、糸が当たっているのではないかとご心配されていました。
角膜所見
まぶたの裏の所見
糸が当たっている可能性が高いと思いましたので、まぶたを翻転(ひっくり返す)して裏側をみてみました。まぶたには瞼板という軟骨様の組織があります。まぶたを翻転すると、瞼板とその表面を覆っている眼瞼結膜という粘膜が見えます。埋没法ではこの部分に糸を通す瞼板法と呼ばれる方法があります。患者さんの結膜は赤く充血して、腫れてしまっている状態でした。結膜が腫れてしまうと、たとえ糸が露出していても、粘膜に埋もれて見つけるのが難しくなります。
診察と対応
その後の経過
再診時の所見
再診時にまぶたを翻転して眼瞼結膜を観察すると、初診時の結膜の腫れが改善し、埋没法の糸を通した箇所がわかるようになりました(白色円の中央)。横に白っぽく見えるのが手術の痕です
糸の切除
手術室の顕微鏡で手術の瘢痕がある箇所を観察してみました。一見明らかな糸の露出はありませんでしたが、特殊な器械でまぶたをさらにひっくり返してみると(二重翻転)、透明な糸の断端を見つけることができました。糸を引っ張ってみると、抵抗があったため、無理に引き抜くことはせずに、糸を短く切除しました。通常、埋没法の手術では結び目(糸玉)は皮膚側にあるため、糸が切れていても、まぶたの裏側からは、引き抜くことができないこともあります。そういった際でも、糸を短く切除することで、眼瞼結膜から糸が露出しなくなり、角膜のキズが良くなることもあります。今回も糸を短くすることで、様子を見ることにしました。
糸の抜糸
糸を短く切除した後の診察時では、良くなっているが、まだ異物感が残っていると患者さんの訴えがありました。眼瞼結膜を観察すると、露出した糸の断端が見られました(白色円の中央)。手術室の顕微鏡下で糸を引っ張ってみると、今度は抵抗なく糸を引き抜くことができました。
まとめ
埋没法後の糸の切除や抜糸
埋没法では手術から時間が経つと、糸が切れて、その断端がまぶたの裏の結膜から露出してしまい、眼球の表面の角膜や結膜にキズをつけて、異物感や痛み、充血などの症状を引き起こすことがあります。コンタクトレンズを装用している患者さんでは、レンズが目の表面をガードしてくれるため、レンズを外すと症状が強くでることがあります。糸が露出してしまった場合は、糸を短く切除するか抜糸をしないと症状の改善はできません。露出した糸を確認するためには、まぶたを翻転して観察しますが、普通に翻転しただけでは、糸が眼瞼結膜の表面から露出せずに、見つけることができない場合があります。また顕微鏡で観察しないと、わずかに露出したブルーや透明のナイロン糸などでは、発見が難しいことがあります。
最近、当院には埋没法後の糸の露出によるトラブルの患者さんが数多く来院されます。露出した糸の抜糸や眼球の表面のキズに対する治療など適切に対応いたします。
まぶたの美容手術後のトラブル対応
その他のまぶたの美容手術後のトラブルなどについてもご相談をお受けいたします。まぶたの手術後にはまぶたの形態の変化や、まぶたの裏側の粘膜、結膜の炎症や腫れなどが起こり、眼球へ影響して、さまざまなトラブルが起こることがあります。特に術後早期にはまぶたの腫れが強く起こることで、一時的なトラブルが起こることもよくあります。症状を緩和するために適切な点眼薬などを処方いたしますのでご相談ください。