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  • アトロピン点眼で近視予防 効果・副作用・治療法を解説
  • アトロピン点眼で近視予防 効果・副作用・治療法を解説

    目次

    お子様の近視の進行で心配されている親御さんも多いのではないでしょうか?低濃度アトロピン点眼は、近視の進行を抑制する効果が期待できる治療法です。この記事では、アトロピン点眼の効果や安全性、治療の進め方、費用、そして気になる副作用まで、詳しく解説します。大切なお子様の未来のために、近視予防の選択肢を一緒に考えてみましょう。

    近視進行予防の重要性

    将来の眼疾患発生リスクの軽減

    近視が進行すると、眼球がの奥行き(眼軸)が伸びてしまい、網膜が引き伸ばされ薄くなることがあります。これは、将来的に深刻な眼疾患のリスクを高めます。例えば、網膜剥離・緑内障・近視性黄斑変性などは、重篤なものでは失明の可能性のある疾患です。高度な近視ではこれらの眼疾患の発生頻度が高くなることがわかっています。

    近視が進行してしまっても、将来的に手術を受ければ問題ないと考える方もいらっしゃるかもしれません。近視矯正の手術は素晴らしい技術だと思います。しかし、前に述べた眼軸の伸長による眼疾患発生のリスクは減らすことはできません。

    より良い視機能の維持

    近視が強くなると、メガネやコンタクトレンズの度数が強くなり、見え方の質が低下してしまいます。矯正することで視力は一見問題なく出ていても、見え方の質は低下していることがあります。また日常生活でもメガネやコンタクトレンズへの依存が高くなり、不便さを増すことになります。

    アトロピン点眼とは?

    アトロピン点眼のメカニズムと効果

    近視は、眼球が前後方向に伸びてしまう(眼軸長が伸びる)ことで、焦点が網膜よりも手前に合ってしまう状態です。アトロピン点眼は、眼球の奥行き(眼軸長)が過度に伸びるのを抑え、近視の進行を遅らせる効果が期待されています。特に低濃度のアトロピン点眼薬は、副作用のリスクを抑えつつ、効果的な近視進行抑制が期待できるため、注目されています。アトロピンが近視の進行を抑制するメカニズムは、完全には解明されていませんが、現在の研究ではいくつかの重要な経路が示唆されています。

    ・網膜と強膜のムスカリン受容体の遮断
    ・網膜のドーパミン放出の促進
    ・強膜リモデリングの阻害
    ・脈絡膜厚の増加

    難しいことを羅列してしまいましたが、これらの作用によって眼軸長が伸びることが抑制される可能性が考えられています。

    臨床研究の結果、低濃度アトロピン点眼薬は、プラセボ(効果のない偽薬)と比較して、有意に近視の進行を抑制することが示されています。ただし、効果には個人差があり、全てのお子様に同様の効果が期待できるわけではありません。定期的な検査を行いながら、効果を評価していく必要があります。

    低濃度アトロピン点眼のメリット・デメリット

    低濃度アトロピン点眼の使用法は1日1回就寝前に点眼するだけと、お子様にも継続しやすい方法です。小学校低学年の近視が始まったばかりの頃からでも点眼を使用することができます。早期から点眼を開始することで、近視の進行抑制をより効果的に行うことができます。

    低濃度アトロピン点眼薬は、従来の濃度のアトロピン点眼薬と比較して、副作用のリスクを大幅に軽減することができます。アトロピンには散瞳作用(瞳孔が開く)とピントを合わせる調節機能を麻痺させる作用があります。低濃度のアトロピンはこれらの作用が弱いため、まぶしさを感じにくく、近見視力の低下も少ないとされています。そのため、日常生活への影響を最小限に抑えながら、近視進行抑制治療を行うことができます。

    低濃度アトロピンの効果には個人差があります。全てのお子様に十分な効果が得られるとは限らず、効果が得られるまでの期間も個人差があります。定期的な検査で効果を評価し、必要に応じて他の治療法との併用も検討する必要があります。副作用の発現も個人差があります。まぶしさや近くのものが見にくいなどを感じることもあります。

    アトロピン点眼薬は、現在のところ保険適用外の治療法です。そのため、診察料や検査料、薬剤費など、全ての費用が自己負担となります。

    リジュセアミニとマイオピン

    日本国内で取り扱いのあるアトロピン点眼は参天製薬が国内で製造販売の認可をとったリジュセアミニ0.025%とシンガポールから輸入されているマイオピン0.01%およびマイオピン0.025%があります。
    リジュセアミニは1回使い切りの点眼液で防腐剤を含まないものです。濃度は0.025%の1種類しかありません。マイオピンは2種類の濃度があります。一般的に0.025%の点眼の方が効果が高いとされています。リジュセアミニは製剤の設計により、瞳孔への作用が少ないとされており、まぶしさや近くのものが見にくいといった副作用が起こりにくい可能性があります。

    アトロピン点眼とオルソケラトロジー

    オルソケラトロジーの近視進行抑制効果

    オルソケラトロジーは特殊なコンタクトレンズを装用して角膜の形状を矯正する治療法です。就寝中にレンズを装用し、角膜の形状を変化させることで、光の屈折が弱くなり近視を矯正できます。近視進行の抑制効果はアトロピン点眼よりオルソケラトロジーのほうが高いとされてます。

    アトロピン点眼とオルソケラトロジーの違い

    アトロピン点眼は、薬理学的な作用によって近視の進行を抑制するのに対し、オルソケラトロジーは物理的に角膜の形状を変えることで近視を矯正します。オルソケラトロジーは、日中に裸眼で生活できるというメリットがありますが、毎晩コンタクトレンズを装用して就寝する必要があります。またハードコンタクトレンズは装用感が悪く、慣れるまでに時間がかかることがあります。特に低学年のお子様ではレンズの脱着は親御さんにしていただく必要があります。

    アトロピン点眼は、点眼するだけで治療を行えるため、比較的簡便ですが、効果が現れるまでに時間がかかる場合があります。視力を向上させるものではなく、近視の進行を抑制させるものです。また、稀に副作用が生じる可能性があります。オルソケラトロジーは、比較的短期間で視力矯正効果が得られますが、角膜への負担や感染症のリスクも考慮する必要があります。

    どちらの治療法にも、メリットとデメリットが存在します。お子様の年齢、近視の強さ、生活習慣などを総合的に考慮し、最適な治療法を選択することが重要です。また、両方の治療法を併用することも可能です。

    アトロピン点眼の安全性と副作用

    低濃度アトロピン点眼の安全性

    重篤な全身の副作用や眼局所の副作用は稀です。日本での研究やシンガポール国立眼科センターでの研究では重篤な副作用の報告はほとんどありません。

    眼圧に影響を与えないという報告があります。白内障を起こすという報告はありません。点眼終了後に瞳孔が開きっぱなしになったり、ピントの調節機能の低下が続くといった報告もありません。

    網膜の機能に異常をきたすといった報告はありません。

    低濃度アトロピン点眼の軽微な副作用

    低濃度アトロピン点眼は、安全性が高いとされていますが、まれに瞳孔が開いた状態によるまぶしさや、近くが見えにくくなるなどの軽微な副作用があります。異常を感じた場合は、点眼を中止することで改善します。

    まれにアレルギー反応が起こることがあります。点眼薬に含まれる成分に対する過敏反応によって、目の痒み、充血、涙目などの症状が現れることがあります。

    アトロピン点眼治療の進め方と費用

    治療の流れ:検査から点眼開始まで

    まず、近視や乱視の度数を測る屈折検査や視力検査をおこないます。次に診察で眼球やまぶたに異常がないかをチェックします。アトロピン点眼治療に適していると判断された場合、点眼を開始します。1日1回就寝前に点眼します。

    点眼開始後は、定期的な検査をおこない、治療の効果や副作用をチェックします。通常、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に検査を行います。アトロピン点眼液の種類や濃度を変更する場合があります。

    アトロピン点眼にかかる費用

    アトロピン点眼は保険適用外のため、全額自己負担となります。費用は施設によって異なりますが、診察料や検査料、点眼液代などがかかります。当院では検査料と点眼薬代がかかります。

    点眼開始後は定期的をおこないます。通常、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後などに検査を行い、問題がなければ点眼液を購入していただき治療を継続します。当院では検査料と点眼液代の費用が購入本数分かかります。

    アトロピン点眼以外にできること:近視対策の総合的なアプローチ

    屋外活動の重要性

    近年の研究では、屋外での活動が近視の進行を抑制する効果があることが示されています。1日に2時間以上、屋外で過ごすことを推奨します。公園で遊んだり、散歩に出かけたり、積極的に外で活動しましょう。

    屋外活動が近視の進行を抑制するメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、太陽光に含まれる特定の波長の光(紫外線)が、網膜におけるドーパミン放出を促進し、眼球の過度な伸長を抑制するのではないかと考えられています。

    眼科での検査の重要性

    近視の進行状況や目の健康状態をチェックするために、定期的な眼科検査は非常に重要です。特に、お子様の視力は変化しやすいため、近視が始まっているようであれば、半年に一度は眼科を受診することをおすすめします。

    近視が進行している場合は、アトロピン点眼薬だけでなく、オルソケラトロジーなどの治療法を検討することができます。また必要に応じてメガネの処方をします。強すぎるメガネの使用は近視を進行させる可能性があります。きちんとした検査で適切なメガネを処方することが大切です。

    近視がすでにある程度進行してしまっている場合などは、多焦点コンタクトレンズ(EDOF)の使用も選択肢の一つです。多焦点コンタクトレンズにも近視進行抑制の効果が認められています。

    お子様の将来の目のために

    アトロピン点眼は、お子様の近視進行を抑制する有効な手段の一つです。重篤な副作用が起こることはほとんどなく、1日1回就寝前の点眼なので、小さなお子様でも比較的簡単に継続することができます。近視の進行が始まった段階で早期に始めることで、より近視の進行を効果的に抑えることができます。近視の進行は低年齢の方が進行のスピードが速いことが指摘されています。特に小学校から中学校の年齢での治療が重要です。

    アトロピン点眼は、近視進行抑制の有効な手段の一つですが、万能ではありません。近視の全てのお子様に高い効果があるわけではなく、副作用のリスクもわずかながらあります。お子様の年齢、近視の強さ、生活習慣、目の健康状態などを考慮して、近視に対する最適な治療法を選択することが重要です。

    アトロピン点眼だけでなく、生活習慣の見直しなど、総合的なアプローチで近視と向きあうことが必要です。屋外活動を増やしたり、長時間近距離での作業を避けたりすることも大切です。

    近視の進行を抑制することは、高度の近視となり、眼疾患の発生リスクを高めることを阻止することにつながります。お子様の将来の目の健康を守るために、親御さんがしっかりとした対応をしていただくことが必要だと思います。

    この記事の監修

    院長

    伊藤学

    ・東京慈恵会医科大学附属病院
    ・東京女子医科大学糖尿病センター眼科
    ・富士市立中央病院眼科部長
    ・オリンピア眼科病院
    ・溜池山王伊藤眼科開設
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