網膜静脈閉塞症は眼底出血のなかでは日常診療の中でよく遭遇する疾患です。視力低下を来たし、治療が適切に行われないと、視力の回復が悪くなったり、二次的な合併症を起こすこともあります。近年、抗VEGF薬の登場で網膜静脈閉塞症の治療も進歩し、治療効果も高くなってきました。抗VEGF薬を眼内の硝子体の中に注射する治療が行われています。今回は当院で硝子体注射治療を行った患者さんの例も提示して、網膜静脈閉塞症についてお話しいたします。
網膜静脈閉塞症とは
網膜静脈閉塞症の基礎知識
発症の主な原因
症状
網膜静脈閉塞症の症状は、閉塞の程度や場所によって異なりますが、主な症状としては、視力低下、視野欠損(視界の一部が見にくい)、物がゆがんで見えるなどがあります。視野欠損では視界の上方だけ、下方だけのことがあります。これは静脈閉塞が網膜の上半分や下半分だけに起こることがあるためです。
診断方法
抗VEGF薬の注射治療と効果
抗VEGF薬とは
抗VEGF薬の注射は、網膜静脈閉塞症の治療に用いられる、血管内皮増殖因子(VEGF)と呼ばれる物質の働きを抑える注射です。VEGFは、血管の成長を促進する働きを持つ物質で、網膜静脈閉塞症では、VEGFの過剰な分泌によって、網膜の浮腫や出血を引き起こします。抗VEGF薬注射は、VEGFの働きを抑えることで、網膜の浮腫や出血を改善し視力回復を促します。
硝子体注射の方法
治療効果と評価方法
抗VEGF薬の硝子体注射を行った症例
症状と検査所見
4日前からの左眼のかすみを自覚して当院を受診されました。視力はレンズで矯正しても0.3までしかでませんでした。眼底検査をすると、左眼の下半分を中心とする網膜出血があり、白い斑状のもの(軟性白斑)が散在しています。網膜の静脈は拡張していて、蛇行しています。網膜出血は網膜の中心部である黄斑部にも及んでいて、浮腫んでいました。
抗VEGF硝子体注射後の経過
注射5日後
抗VEGF薬の硝子体注射を行いました。注射を行なって5日目の検査では、矯正視力は1.2まで改善しました。OCT画像では黄斑部の浮腫が大幅に改善していました。
注射1ヶ月後
抗VEGF薬の硝子体注射を行なって約1ヶ月の検査では、網膜出血は減少しています。また黄斑部の浮腫の再発はなく、矯正視力は1.2で維持できていました。
抗VEGF薬注射の費用
抗VEGF薬は数種類の薬剤があります。当院ではバイオシミラーという後発医薬品を積極的に使用しています。先発薬と比較して6割程度の薬価になりますので保険自己負担が3割の患者さんでは医療費の大きな差となります。バイオシミラーを使用する硝子体注射の費用ですが3割負担の患者さんで、おおよそ25,000円程度です。
まとめ
高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などで治療をされている患者さんは網膜静脈閉塞症のリスクが高くなります。急な視力低下や目のかすみなどを感じた場合は、網膜静脈閉塞症の可能性がありますので、早めに眼科を受診して眼底検査を受けることが大切です。抗VEGF薬は治療効果の高い薬です。発症初期に治療を行うことで、より眼の機能を保つことが可能です。
当院では網膜静脈閉塞症の抗VEGF薬の硝子体注射を行なっています。また黄斑変性や近視性脈絡膜新生血管、糖尿病黄斑浮腫などに対する硝子体注射も行なっています。