甲状腺眼症のパルス療法
ステロイドパルス療法 の適応
眼窩内の炎症が強い場合や病状が急速に悪化している場合など、活動性が高く、中等症から重症の甲状腺眼症にはステロイド剤の全身投与を行います。ステロイド剤は抗炎症作用と免疫抑制作用があります。
すなわち自己免疫が原因となっている甲状腺眼症ではステロイドパルス療法による免疫抑制効果は炎症の原因を抑える方向に作用すると考えられます。また眼窩内に起こっている炎症を大量のステロイド剤の直接的な作用で鎮静化させます。
ステロイドパルス療法は全身投与で最も効果が高く、重篤な合併症の頻度も低いために特に活動製の高い甲状腺眼症では治療の中心になります。大量のステロイド剤を短期間に集中的に投与することで、ステロイド剤の副作用を抑えつつ、最大限の効果を得られるようにします。
ステロイドパルス療法 (Weekly法)投与方法
The 2021 European Group on Graves’ orbitopathy (EUGOGO) clinical practice guidelines for the medical management of Graves’ orbitopathy.
パルス療法のステロイド剤の投与方法はいろいろなバリエーションがありますが、上記の治療指針において中等度から重度の甲状腺眼症に対する標準的な治療方法として推奨されているものを当院でも採用しています。
メチルプレドニゾロン250〜500mgを週に1度点滴で投与します。
点滴は通院で行い所要時間は60分程度です。これを6週間(計6回)継続します。
6週間後にMRIで眼の周囲、眼窩内の炎症を検査します。効果が不十分な場合はさらに6週間(計12回)継続します。
12週間後に再度MRIで眼の周囲、眼窩内の炎症を検査します。
ステロイドパルス療法 の全身管理
ステロイド剤ははさまざまな副作用が起こる可能性があります。重篤なものでは免疫抑制作用による感染症があります。血糖値の上昇、高脂血症や高血圧。また骨粗鬆症の発生予防のため薬を内服する場合があります。消化性潰瘍が起こることがあるため胃酸の分泌を抑える薬を使用することがあります。筋力の低下や関節痛、不眠や精神症状、便秘や下痢、満月様顔貌(クッシング症候群)、副腎不全、血栓症など。
これらの副作用は必発ではありません。weekly法のパルス療法は重篤な副作用の可能性は低いと思われますが、治療前および治療中は定期的な血液検査などを行い副作用の発生を監視していきます。
年齢や体重、治療中の病気などを考慮して、無理のない量のステロイドを投与します。決まった期間に一定量を超えるステロイドが投与されると合併症のリスクが上がることがわかっています。基準内の投与量とすることで安全性を高めます。
ステロイドパルス療法 の効果と限界
パルス療法後に眼窩内の炎症が順調に鎮静化すると、徐々に症状も落ち着いてきます。まぶたの腫れや充血、また眼球運動障害による複視も改善することがあります。外眼筋や眼窩脂肪の炎症が収まり、それらの体積が減れば、眼球突出も改善します。しかし、この治療を行っても反応が悪く、炎症を治めるのに他の治療方法を併用したり、時間が長くかかることも数多く経験します。
甲状腺眼症に決定的な治療方法はないのが現状です。パルス療法に対する反応を見て、経過が良ければそのまま様子を見る、反応が悪ければ次の方法を考えます。反応が悪い症例にだらだらとステロイドを使ってもあまり良くならず、体に対する副作用は強くなってしまいます。
病気の活動性が高い期間はどんなに薬剤を使って治療しても、なかなか良い反応が得られないことは多々あります。強い炎症が起きている期間をできるだけ短くして、活動が鎮静化した時の眼の状態をできるだけ良い状態に保てる様に治療を考えます。全身投与だけでなく、ステロイドの局所投与や放射線治療をうまく使い、活動期をやり過ごすことが重要です。そうすることで活動期が終わった後に治療することが少なくなり、患者さんの負担も軽くなります。